コイン

 

今日、コイン展示場の受付・販売のアルバイト(友人に紹介してもらった!)をしたのだが、そこで私は1人の老人に出会った。

 

 

私が担当した展示場のブースでは、数多くの貴重なコインが年代順に展示されていた。お客様の多くが熱狂的なコイン収集家であり、陳列されたコインを吟味する眼差しは獲物を狩る時の野生動物のようだった。

 

お昼過ぎ、ひとりの老人が私のブースにやってきた。彼は杖をついていない方の手でひたすら何かを探しているようだったが、手は震えていて、また老眼のためかコインの年数を読むのに苦労していた。

お手伝いしましょうか、と声を掛けると、1927年のプルーフという種類のコインを探しているとのことだった。

私は陳列棚をくまなく探し、店主にも確認したが、そのコインはなかった。その旨を伝えると、彼は本当に悲しそうな表情をみせた。

彼は今日、そのコインを見つけるために、はるばる長野から東京のコイン会場まで来たそうだ。そのコインがないと彼のコレクションは完成しないらしい。

彼は「あと少しなんだが…。」と顔をしわくちゃにしながら笑い、去っていった。

 

彼の皺だらけの顔と曲がった腰をみて、老いというのはとても切ないことなのだと痛感した。

 

喉の奥がどうしようもなく熱かった。

 

どうか彼が彼の求めているコインに出会えますように。