イス
大学1年の春。
初めて飲み会というものに参加した私は、少し緊張していた。渡されたソフトドリンクのジョッキがやけに重い。
「飲み物それであってる?」
「あ、あってます!」
「じーっと飲み物みつめてたから違うのかと思った笑」
「あ、えっと、なんていうか、こうやってジョッキ持つと大人になった気分になれるなぁって思って…!」
「マナコレちゃんのただのカルピスじゃん、ふふ、ウケる。」
…わたし、変な受け答えしちゃったかな?
「マナコレちゃんは普段なにしてるの?」
「えっと、映画みるのがすきで、特にインド映画が大好きなんです。」
「映画かあ、インドアな感じなんだね。」
雑に枝豆のお皿がテーブルに置かれる。でも、誰も枝豆には手を伸ばそうとしない。
なんだか不憫だ。
お手洗いから戻ると、私のイスには他の人が座っていた。
この感じ、しってる。本とか映画とかで、なんとなく。大人数の飲み会って盛り上がってくると、ふわふわ〜って席移動するものなんだよね。なるほど、これがそれね。
私のカルピス、遠いな。
枝豆はまだ山盛り。
ああ。
私のイスはきっとここにはないんだ。
…あれからおよそ2年が経った。
こんなインキャな私でも、飲み会で楽しいと感じられる瞬間も増え、少しずつお酒を飲む場にも慣れてきたのだけど、いまだにドキドキしてしまうこともある。
来月の末に、私のバイト先では大きな飲み会がある。今のバイト先はとても楽しく、まわりのみんなもいい人ばかり。だけど、ウェイ気質な人が多いので、飲み会はけっこう激しそうな感じらしく、ちょっとこわい。
今まではやんわりと断り続けてきたのだけど、来月の飲み会はお世話になった方の送別会も兼ねているので断る訳にはいかない。(お世話になった方にお礼を言いたいので行きたいという気持ちもあるにはある。)
ちゃんと私のイスはあるかな…。
持ちネタとか何もないけど、楽しく話せる…?
こんな風に緊張してしまうの、ほんっとに情けないなあ…!!!と思う(T . T)